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HIVに感染しない人が10%存在
2005/07/18 10:21
HIV感染者と性交渉をしてもHIVに「感染しない」人が10%も存在する−−−。
7/1発売の英医学専門誌「AIDS」で発表された論文が、医学界で注目を集めている。
報告したのは近畿大学医学部の宮沢正顕教授(免疫学)とイタリア・ミラノ大学のクレーリチ教授をはじめとする研究グループだ。
01年末から共同研究を始めた宮沢教授らのグループは、イタリアの複数の臨床医が、「理由は不明だが、HIVに感染しない人がいるようだ」と語っていたことに着目。
イタリアで、HIV感染者と4年以上性交渉を続けながらもウィルスに感染しない42人のDNAを検査した。その結果、彼らのDNAに共通する特徴が見つかったのだという。
宮沢教授が語る。「感染しない人々のDNAには、26本ある染色体のうち、一番小さい22番染色体に、特徴的な塩基配列の部分があることがわかったのです」
この特徴的な塩基配列の遺伝子が、ウィルスから体を守る免疫細胞の働きを調整することが判明。
「”感染しない人”の体にウィルスが侵入した際、何らかのきっかけで、この遺伝子に働きかけが起こり、免疫力が上がるようになっているようです」 (宮沢教授)
イタリアで、130人を調査したところ10数%の人が、この特徴を有していることがわかった。日本では、把握されている感染者数が少なく、同様の調査が行われていないが、「感染しない人々が相当数いることは十分予想できる」(前出・宮沢教授)という。
今回の研究結果が画期的なのは、エイズへの予防・治療への大きな一助となる可能性が高いことだ。宮沢教授が続ける。「免疫力を上げる作用が何によって行われているかがわかれば、効果的な抗ウィルス薬の開発につながるはずです」
感染症研究の権威である大阪大学微生物病研究所・塩田達雄教授もこう評価する。
「感染しにくくなったり、発病を抑制したりする特徴的な塩基配列の遺伝子の存在を見つけたことは、世界ではじめてのこと。そのメカニズムの解明が進めば、仮にその遺伝子を持っていない人にとっても有効な予防・治療方法が確立される可能性があります」
厚生労働省によると、わが国で昨年新たに報告されたHIV感染者とエイズ患者は1165人に上り、過去最高を記録した。これまでの感染者・患者の累計は1万人を突破している。さらに、今年2月にアメリカでは、感染から数か月で発祥に至る「劇症型ウィルス」の存在が報告されている。 (週刊ポスト2005.7.22号) |