ニュース
カミングアウトを始めるアラブ系ゲイの男性たち
2005/10/29 17:45
(ベイルート・レバノン)アハマド・マーフォズ氏は、「母親に自分がゲイであることを告白した時、母親は抗うつ剤で私の病気が治ると考え、精神科へと連れて行き、効果をないと気づくと、女性と交際するよう脅かした。そして、私は母親の意見を無視し続けた結果、彼女は私を見るたび、殴りかかってくる。」と語った。
今回インタビューをしたアハマド・マーフォズ氏は、レバノン人であり、イスラム教徒である19歳の男子大学生。写真は撮らなかったものの、名を快く語ってくれた点で非常に誠実でまれな存在であったという。
多くのアラブ系男性は少なからず自分自身の性認識を受け入れ、同性愛者であることを公言する。しかしながら、いくつかの国では同性愛を違法とみなし、彼らを刑務所へと送ることもある。そして、彼らはイスラム教が同性愛を有罪としているため、鞭打ちの刑と処されることがある。
上記のように過激論者は同性愛を、イスラム世界の破滅へと向かわせるため米国とイスラエルが持ち込んだ病だと捉えている。
レバノンでは、去年設立されたヘレム団体の事務所が同性愛者の避難所とされている。
レバノンは、同性愛を“自然でない性交渉”とし、1年間の拘留の罰に課すと、不明瞭に記された法律を持つにもかかわらず、宗教的な多元的共存の歴史や欧米との接点を持っている。しかし同性愛者は中東のどこかで単独で生活していかなければならない。
エジプトの権力者は遊興や売春の法律条項を用いて同性愛者を罰する。彼らは同性愛者と見られる何百人もの人を拷問にかけ、逮捕する。ニューヨーク・ヒューマン・ライツ・ウォッチは、そこで警察によって捕らえられる人々のほとんどはインターネットの個人情報からによるものと伝えている。少なくとも2001年の開始から179人のゲイ男性が好色によって罰せられている。
フランスのシラク大統領はエジプトのムバラク大統領のとる同性愛者への対応に関して少々懸念を示している。しかしながら、エジプト人権擁護団体は“わが国では同性愛者をひどく嫌う傾向にある。したがって特別彼らの弁護をすることはできない”と述べた。
最近ではアル・アラビア・テレビのサイトはカイロでのクウェート人による同性愛カップルの結婚式を取り上げ、痛烈な非難の引き金となった。中にはイラクでの反乱で無実の人が殺されるのは間違いで、同性愛者が殺されるべきだと言う人もいる。実際クウェート人の結婚式の真偽は定かではない。
厳格にイスラム経典を施行するサウジアラビアではヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によるとエジプトと同じく同性愛者は政府の支配化に置かれている。
3月10日に政府は、100人以上ものゲイ男性をジェッダのパーティー会場で拘束し、合法的な評議なしの非公開公判で2年間の刑を言い渡した。そして通常1回の鞭打ちが50回なのに対し、彼らには2000回も行ったとHRWは語っている。
また、刑罰に関することは、通例具体的に明かされないことがほとんどであるが、サウジニュースは起訴された男性らは皆“女性のように振舞い、踊っていた”とする理由を公表した。
カイロ在住のレバノン系社会学者のダラル・アルビズリ氏は、アラブ人にとって同性愛とは欧米からの輸入品であり、また不動な男らしさの恐怖である、という。そして政治的に言えば性的不能を意味し、さらには、パレスチナ人やイラク人にとって彼らは無能であるとして、屈辱的な思いを感じずにはいられないものとされている。したがって同性愛者は幾分薬物乱用者以上にアラブ地域では非難されている、と話す。
ヨルダン西岸とガザ地区では多くのアラブ系ゲイ男性が女性との結婚生活を送る一方、内密にゲイライフを過ごすという二重の生活をこなしている。
その一方、先ほどのレバノン人のマーフォズ氏のように遊びまわるのを拒む者もいる。
華奢で黒髪の彼は今、母親の憤怒、彼女から携帯を奪われる危機と同性愛を洗脳した音楽から彼を遠ざけようする彼女のもくろみから逃げられる新しい居場所を探しているそうだ。
“僕が去るまで彼女の怒りに触れぬよう女性と交際をしているように振舞うつもりだ。その女性はレズビアンの友達だけど、まぁとにかく母は何も知らないし、そうするよ。”彼は笑いながらそう答えた。
情報科学を学ぶ21歳のレバノン男性、バイラル・シャラフェル・ディン氏は友人と姉妹だけに彼が同性愛者であることを告白した。イスラム教徒の彼はイスラム教が同性愛を罪と見なしていることは知っているが、非難されるべきではないと語る。
“ここでは着飾るしかない。”彼はそう言い、空を指さした。“時がくるまで今を楽しむよ”
ここ最近レバノンではゲイに関する訴追があがっていない。ところが同性愛者の鞭打ちはなくなっておらず、同性愛者であることを理由に解雇されるケースもある、とキリスト教徒で同性愛者である人権センター、ヘレムの唯一の社員、ジョージア・アジ氏は話す。
彼はヘレムが大学などの施設を利用して講演会を行うことで同性愛に関する意識を上げようと試みている。市内にはゲイフレンドリーなバーも軒を並べており、5月には初めてレバノンでホモフォビアに関するインターナショナル・デーが認められた。
ヘレムはシーサイド・ベイルート・ホテルに異性愛者、同性愛者を分け隔てなくおよそ200人もの人が一緒に集うイベントに注目した。それは彼の存在を映像化することとなり、米国在住の中東を背景にもつゲイ男性のドキュメンタリー映画となった。そして彼は“あなたはコーヒーを。私はティーを。私は異常かしら?”のスローガンが書かれたパンフレットとボタンを配布した。
ヘレムはアラブ系では始めてのゲイマガジン「バラ」を出版している。
レバノンには男性のベリーダンサーが存在する。その一人である、23歳の両性愛者で華奢なテディー(ステージネーム)はこう言う。
“普通の生活を送ること”に関して、相当な代償を払わなければやっていけないことだろう。“人は時に僕があたかも火星人かのように見るんだ”
優雅な黒髪のポニーテールにマスカラをぬったまつ毛、ふっくらした唇、マニキュアされた爪の彼はベイルートにある流行のコーヒーショップに立っている。
彼のダンスの受けは非常に良い。しかし、“時々ナイトクラブで僕につばをはき捨てる客がいるんだ。コップを投げてくるやつもいる。でも僕は問題を起こしたくないから反応しないよ。”
彼は続けて、“ここでは男女自由に交わりあう。だから両親はすぐに異性愛者でないことに気づく。本当にレバノンはゲイにとって住みづらい場所だよ。”と奇妙げに話した。
“サウジアラビアでは男女差別がある。男女が隔離されている限り、両親は自分の子供らは安全だと感じる。”
彼は10年後どこにいるのだろう。
“僕はレバノンやその他のアラブ地域の同性愛者保護団体の責任者になっていたい。そして、人権に関してとても有名な弁護士になっているんだ。”“そしてその頃には女性と結婚して14人の父親になってるのさ。” |