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急成長するゲイ、レズビアン向け広告
2006/09/21 23:04
米国はゲイ大国と呼ばれている。ゲイとレズビアンの人口は推計1500万人で、その数は、アジア系米国人の1200万人よりも多い。米国の成人人口の6%以上を占めるとみられている。その購買力は6410億ドル(約 74 兆円)。マーケティング大国でもある米国において、この市場が放っておかれるはずがない。
■拡大するゲイ向けメディア?出版、ラジオ、テレビ、イベントへ
ゲイやレズビアンが好む洋服やアクセサリー、ライフスタイル、エンターテインメント情報などを幅広く取り上げたファッション誌や、ゲイ・コミュニティのイベントなどを紹介する情報誌の発行部数が伸びている。現在の発行部数は、合計でおよそ342万部。中でも2大ゲイ専門誌であるThe Advocate誌とOut誌の発行部数の伸びは大きい。The Advocate誌の2006年の発行部数は15万5000部。2007年には17万5000部に増える見込みだ。Out誌の発行部数も、14万5000部が16万5000部となる見通しである。
出版以外では、ゲイをターゲットにした24時間ラジオ放送OUT-Qが、2002年に放送を開始している。当時立ち上がったばかりの衛星デジタル放送「 Sirius Satellite Radio 」を使って始まった。
テレビでは、ペイパービュー(PPV)放送のHere!TVが、ゲイ専門テレビ・チャンネルを2002年に開始し、先陣を切った。ゲイが好むファッション、エンターテインメントを取り上げる情報番組や、ゲイが主人公のドラマ、映画などを放送している。2005年には、大手メディア企業MTVの傘下にあるLOGOチャンネルが、ゲイ専門の、PPVではない一般ケーブルテレビ放送を初めてスタートした。
ゲイ・レズビアン・コミュニティによるイベントも、重要なゲイ・メディアの 1 つである。ニューヨーク、サンフランシスコなど全米各地で、ゲイ・パレード、ゲイ国際映画祭が開催されている。加えて2006年には、7回目を迎えたゲイのオリンピック「ゲイ・ゲームズ」が10万人の観客を集めた。
■ゲイ向け広告に続々と参入するメジャー企業
ゲイ市場向けのマーケティングを専門に扱うリヴェンデル・メディア社の最新の「ゲイ・プレス・レポート」によると、ゲイ、レズビアン向け出版物に2005年に投下された広告費は2億1220万ドル(約246億円)に達するという。これは、10年さかのぼった1996年の189%増。この間の通常の出版物向けの広告費の伸び率が42%増であることと比べると、その成長の大きさが分かるだろう。
ゲイ向け広告をモニターする公益法人コマーシャル・クローゼット・アソシエーションは、オンライン・ゲイ・メディアに2005年に投入された広告費を1200万ドル(約14億円)、イベントなどその他に投入された広告費を700万ドル(約8億円)以上と見積もっている。 2006年のゲイ・ゲームズには、ペプシ、ナイキ、アメリカン航空などのメジャー企業も、スポンサーとして名を連ねた。
前出のゲイ・プレス・レポートによれば、2005年の「フォーチュン500」に選ばれた企業のうち、175社以上がゲイ市場向けに宣伝活動を行なっているという。1994年には19社しかなかったことを考えると、この10年で、多くのメジャー企業がゲイ市場に関心を持つようになったことが分かる。中でも、旅行、金融サービス、自動車、ファッションおよびエンターテインメント企業が積極的だ。
「ゲイ1世帯あたりの平均年収は6万5000ドル(約754万円)。全米平均の4万5000 ドル(約522万円)を上回る」。GM社でマーケティング担当エグゼクティブ・ディレクターを務める(当事)マーティン・ウォルシュ氏は、自動車専門誌「 AUTOMOTIVE NEWS 」2005年4月号の記事で、社内調査の結果を明らかにした。「ゲイはお金持ち」というデータが、よりいっそう企業を駆り立てる。
ゲイ、レズビアン向けの広告が急成長した理由を、リヴェンデル・メディア社で CEO を務めるトッド・エヴァンス氏は、こう分析する。「インターネットが普及したことで、より質の高いマーケティング情報が手に入るようになりました。そこで消費者の性的志向がつかめるようになったのです。これによってゲイというターゲットを追求するのが容易になりました」
前出のコマーシャル・クローゼット・アソシエーションは、ゲイ市場のマーケティングを扱う代理店を全米で30社以上リストアップしている。そのうち18社は Web サイト上で「ゲイ、レズビアンに特化したマーケティングを得意とする」と宣言している。
■「具体的内容」が増える
こうした追い風の中で、ゲイ向け広告にちょっとした異変が起きている。リヴェンデル・メディア社のエヴァンス氏は「これまでのゲイ向け広告は、通常の消費者に向けたものと同じものを使っていました。しかし、慣れるにしたがって、より『具体的な内容』を織り込むようになったのです」。
ここで言う「具体的な内容」とは、同性カップルの写真を配置するなど、見るからにゲイをターゲットにした広告のことだ。このほか、広告デザインの中に、ゲイのシンボルであるレインボー・カラーを取り入れたり、「 GAY 」などのキーワードを配したものもある。
リヴェンデル・メディア社が151種類のゲイ、レズビアン向け出版物のすべての広告をチェックしたところ、実に50.3%が「具体的な内容」を含んでいたという。3年前の調査結果9.9%から飛躍的に増加している。
■保守系団体が抵抗、 Ford 不買運動も発生
同性愛に肯定的な広告が大手を振るようになると、当然、抵抗する人たちも現れる。ゲイの市民権に反対するアメリカン・ファミリー・アソシエーション(AFA)は2005年5月、18の保守系団体と共に、その矛先をフォード社に向けた。フォード社は、社内にゲイの権利保護運動に活発な従業員がいたこともあって、他社に先駆けて積極的にゲイ・メディア向けに広告を展開してきた歴史がある。
AFAは何度か広告をやめるよう抗議したが、フォード社は2005年12月に最終的な継続を決断し交渉決裂。それを受けてAFAは、 Boycottford.com を立ち上げ、2006年3月からフォード製品の不買運動を展開し始めた。AFAは、そのWebサイト上で「フォード社の第2四半期における1億2300万ドル(約144億円) (関連情報) の損失は、不買運動の成果だ」と主張している。
しかし、前出のコマーシャル・クローゼット・アソシエーションの最高責任者マイケル・ウィルク氏は、「ゲイ市場に関心を持つ企業に対する保守系団体の抗議は、今のところ目立った成果を上げていない。現在、企業はいかなる消費者をも失う余裕がなく、すべての人々に配慮しながらも、これはというターゲットは追求すべきと考えている」という。フォード社が、保守系団体の抵抗をよそにゲイ市場向けの広告に力を入れ続けるのは、それだけポジティブなリアクションがあるからに他ならない。
■ゲイは広告に敏感に反応する
市場調査会社ハリス・インタラクティヴが、ゲイ・マーケティング会社ウィテック・コーム・コミュニケーションズと共同で2005年秋に行った調査によると、「雑誌を参考に買うものを決める」人の割合はゲイで21%、異性愛者では16%だった。他のメディアについても、ゲイの方が異性愛者より広告に積極的に反応するという結果が出た。
また47%のゲイ、レズビアンたちが、性的志向や人種に対する企業の受け入れ具合を、商品を購入する際の判断材料にしているということも過去の調査で判明している。異性愛者のこの値は18%だった。ゲイに寛容な企業には、それだけゲイの顧客がつくということだ。2大ゲイ専門誌であるThe Advocate誌とOut誌を擁する総合ゲイ・メディアPlanetOut社のCOOジェフ・ソウカップ氏は、「ゲイ、レズビアンの忠誠心は、NASCAR(米国で人気の高いカーレース)ファンより高い」と語る。
実を言うと、ゲイの人口を正確に把握するのは難しい。国勢調査に「性的志向」をチェックする項目があるわけではなく、ゲイか否かは本人の申告以外に判断する材料がない。さらに、一口にゲイと言っても、個人の好みは千差万別。ヤングアダルトもいればシニア層もいる。黒人もいればヒスパニックもいる。細分化されたマーケティングは、いまだ確立されていない。ゲイという市場にはまだまだ開拓の余地がある。その分、広告業界も忙しくなるはずだ。(日経BP) |